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ある日の心療内科にて……

皆さん、どもども。
うつを背負って人生ヒルクライム中のオペラです。

私の通っている診療所は、最近午後の診察開始時刻を変更したようだ。
いや正確に言うと定刻に戻したと言うべきだろうか。

本来16:30からの診察は、これまでずっとなし崩し的に早められていた。
待っている患者が3人ほどに達した時点で何となく診察が開始されていたからだ。
なので出来るだけ待ち時間を減らしたい患者は、競うように来院時間を早めていった。

この日、私が来院したのは16:00ちょっと過ぎ。
すでに待合室の席は埋まりつつあった。
受付のカーテンは閉められたままだったが、診察受付だけは小窓を通して処理されていたようだ。
私は長椅子に腰掛け、読みかけの本を手に取って診察を待つことにした。

それから約15分が経過した頃だろうか、私の対面に座っていたお婆さんが急に立ち上がった。
この時の私は、まさかこれからこのお婆さんの一人芝居が自分の目の前で展開されるなどとは夢にも思っていなかった。
それは、まさにお婆さんが長年培って会得したハイレベルなコミュニケーションスキルのお披露目だった。

お婆さんはスタスタと受付の方に歩いて行き、まずはカーテンを開けさせた。
そして現れた受付のお姉さんに向かってこう言った。
「ちょっと、まだ始まらへんの?
 今日なんか遅ない?」
まず”レベルB”である。
普通の人は中々このように文句を言えない、それも人前で。
更に言うと、まだ診療開始時刻前なのに。

そんなお婆さんの不意打ちに、いつも笑顔のお姉さんは少しもひるむことなくこう答えた。
「そうですねぇ」
一瞬、場に緊張が走った。
お婆さんはとても納得しているようには見えず、むしろもう後には引けなくなったという感が否めなかった。
お婆さんは続けてこう言った。
「なあ、先生どっか具合悪いんちゃう?
 絶対そうやわ。
 ちょっと様子見てきた方がええんちゃう」
これは”レベルA”だ。
本心では「お前ちょっと呼んでこいや!」なのだろうが、それでは角が立つ。
ここでお婆さんがあえて先生の事を心配することで、まるで今の自分が道徳的に正しい行為をしているような錯覚を周囲に与えるのだ。

受付のお姉さんはこの攻撃にどう対処するのだろう?
私はその成り行きを見守った。
「大丈夫だと思います」
お姉さんは笑顔を崩さずに、お婆さんのある意味「命令」をそう受け流した。

自分の要望が受け入れられないと悟ったお婆さんは、すかさず次の手を繰り出した。
「でも何で今日こんな遅いの?
 ちょっと患者のこと馬鹿にしてるんじゃない?」
そしてお婆さんは待合室の方を振り返り、
「みんなこんな待たされてよう我慢できるわ」
と言った後、再びお姉さんに向き直り、
「でもみんな私と同じ気持ちやと思うよ」
と哀願するように訴えた。
出た!”レベルS”である。
お婆さんは誰に同意をとるでもなく、待合室の全員を強制的に自分の側に立たせた。
まるで自分が弱者の代弁者であるかのように振る舞うことで、お婆さんは自分の行為の道徳的優位を堅持したのだ。
もちろん本心は「お前ちょっと呼んでこいや!」である事は言うまでも無い。

結局お婆さんに従って文句を言い始める患者は一人もいなかった。
私などはこの暑い中、エアコンが効いた部屋でソファーに座って本が読めるのでむしろ快適に感じていたくらいだ。

さて、受付のお姉さんはこの攻撃にどう対処したか?
答えは、「ただ黙って笑顔をキープ」である。
その笑顔を見てお婆さんはすごすごと席に引き返す……訳は無かった。
すかさず連続攻撃である。
「ちょっと、私これから別の所で予約があるんよ。
 もう今日はこのまま帰ろうかしら。
 間に合わへんわ」
これは”レベルB”である。
お婆さんは待たされている事に対して、何か自分がないがしろにされていると感じているらしかった。
おそらく自尊心も傷ついたのだろう。
なので「自分は暇ではない!忙しいのに時間を削ってここに来ているのだ!」と言いたかったのだ。
もちろん本心は「お前ちょっと呼んでこいや!」である事は言うまでも無い。

そろそろ16:30になろうとしていた。
私はなぜ受付のお姉さんがお婆さんの要望に従って例え振りでも先生を呼びにいかないのか、何となく理解していた。
これまで彼女たちは、競い合うように早めに来る患者達によって、かなり昼休憩を削られていたはずだ。
午後の診察が急に定刻通りになったのは、恐らく彼女たち受付部門が先生に定刻運営を要望した結果なのだろう。
なのでお姉さんは絶対に先生を呼びにいかない。
16:30開始を慣習づけるのは彼女たちの仕事なのだ。

そうこうしているうちに16:30になり、先生が降りてきた。
最初に呼ばれたのはあのお婆さんだ。
お婆さんは診察室に入るや否や大きな声で先生にこう言った。
「せんせぇー、どっか体の具合悪いん?」
”レベルA”である。
本心は「待たせすぎだろお前」なのだが、
根拠のない心配を大仰に表現することによって「今自分は待たされて不機嫌である」という気持ちをそれとなくぶつけているのだ。
その上、相変わらず自分の高い道徳的立場に一寸の揺らぎも無い。

診療はものの1分で終わった。
にこやかに診察室から出てきたお婆さんは、そのまま受付に行ってお姉さんと話し始めた。
「先生、やっぱりどっか悪そうやで」
ちなみに私の見た感じでは先生はいつも通り健康だった。

お婆さんの頭の中では、先生は体の調子が悪かったという事になっている。
これによって先生が遅れたのは決して自分を軽んじた訳ではないという事になり、目出度くお婆さんの自尊心は守られる。
ついでに彼女の待合室における行為はあくまで先生の身を案じた結果であり、そこには高い道徳性こそあれど罪悪感などは微塵も残らない。
”先生は体の調子が悪い”という設定は、彼女にとって実に都合が良いのだ。

お婆さんはそれから約30分に渡って受付のお姉さんとしゃべり続けた。
そこにはさっきまでの苛立ちは消え、楽しそうに世間話をするお婆さんの姿があった。
そう言えば、さっきまで別に予約があって急いでいるとか何とか言ってなかったか?

まあいい。
とりあえず誰も傷つかずに和やかな雰囲気を取り戻せた。
というか、ただお婆さんが一人芝居を披露しただけなのだが。

しかしこのお婆さんは如何にも京都人という感じだ。
たぶん生まれも育ちも京都なのではないだろうか?
彼女は角が立たないギリギリのところを狙って自分の正当性を訴える術を知っている。
このスキルは人生において重要である。(特に京都では)
なるべくストレスをためこまないよう、そして自尊心を保ち続けられるよう、長い人生経験から自然と培われた彼女なりの処世術である。
お見事!!

最後まで読んで頂き、感謝、感激です。
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